• 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 31

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『さよならピアノソナタ』(シリーズ・レビュー)


さよならピアノソナタ (電撃文庫)さよならピアノソナタ (電撃文庫)
(2007/11)
杉井 光

商品詳細を見る


あぁ私のかけらよ力強くはばたいてゆけ
振り返らないで広い海を越えて
たくさんの光がいつの日もありますように
あなたがいるからこの命は永遠に続いていく

Pieces/L'Arc~en~Ciel



 『神様のメモ帳』でお馴染杉井光さんの作品。み……いや、こちらが代表作なのかな?題名からも分かるとおり、音楽の要素をふんだんに取り入れた作品です。『民俗音楽研究部』という、まあ軽音楽部的な部活で、男1人と女の子3人がバンドを組むというものですが、まぁこの人数構成からも分かるように、女の子3人との恋の駆け引きなんかが描かれたりします。男が女の子3人に目移りする…というよりは、女の子3人が男を巡って水面下で火花を散らしたり…という展開が多いかな。ラブコメディという分野に位置づけられるのではないかと思います。

 非常に個性的な部分としては、やはり最初に述べた、音楽の要素というのが第一にあります。作者の音楽の知識がかなり豊富のようで、頻繁に文面にクラシックのピアノ曲やバイオリン曲の名前が登場します。あとビートルズの曲も。そして、これらの楽曲それ自体がストーリーにおいて非常に重要な意味を持っている、ストーリーを端的に表している、といった使われ方でした。これは、そういった音楽に精通している読者からしたら最高の演出なのでしょうが、僕のようなそっち方面に疎い読者からすると少し置いていかれてしまうような感じもしました。まあこのライトノベルが、これまで聞かなかったクラシックに手を出すきっかけになったりはしましたがね。

 ただ、やはりこうした実際のミュージシャンや曲を作中に登場させることで得られる説得力というものは大きかったです。キャラクターたちが高いレベルで勝負しているというのが伝わってくるからね。そういった意味では、曲名にピンと来ない読者にも効果はあるのかもしれません。

 そうした、非常に高い水準でバンドをやっているということを示すことで魅せられるようになるのが、緊迫感のある演奏シーン。ドラムの疾走、ベースの鼓動、ギターの羽ばたき。巧みな比喩表現によって彩られる演奏は、まさに『手に汗握る』という言葉が相応しい。特に、第4巻の"片翼飛行"の描写は圧巻で、この作品に出会えてよかった、そう思える数ページでした。

 また、音楽というものに関しても作中で言及されます。ここで重要になるのは神楽坂響子というキャラクターで、彼女を無視してこの作品を語ることは出来ないように思います。世界を変えられるのは歌だけ。自称"革命家"の彼女のその言葉は、杉井光さんの胸の内を代弁しているかのような痛切さを持っている。4巻のあとがきでL'Arc~en~Cielの『Pieces』について触れられますが、人々の心に革命を起こすのは言葉であって、そして言葉というのは歌に乗ることでのみ人々の心に届く。
 唯一の革命家だったジョン・レノン。自称"革命家"の神楽坂響子は、彼女だけのポールを探す。この辺りの彼女の心境の動きも非常に読み応えがあるというか、一人の少女の恋というには濃すぎて熱すぎて儚すぎる、そんな物語がありました。この神楽坂響子というキャラクターは杉井光さんにとっても特別なキャラクターに違いないと思います。と、こうまで絶賛してしまうくらいに、神楽坂響子というキャラクターはドラマチックで魅力的でした。いやあ、実に素晴らしいキャラクターです。

 と、神楽坂センパイを賞賛する一方で、苦言を呈したいのは主人公の鈍さ。鈍い、鈍すぎる。まあライトノベルの主人公というのは大抵そんなものなんだけど…。決して読んでいて苛立ったりということはなかったけど、流石に不自然さを感じてしまったのでそこは勿体ないなあという印象でした。
 あとは、音楽の情報を出すのは効果的なのだけれど、ちょっと数が多かったような気もする。さよならピアノソナタなのにどっちかというとビートルズが前面に出ていた感じもしたかな。

 とまぁ、そういった点もいくつかあるのですが、やはり演奏シーンが素晴らしいのです。多彩で繊細な言葉によって目の前に浮かび上がってくる光景、聞こえてくる音。杉井光さんの比喩表現というのは、表面的に鋭く切れ込んでくるような類のものとはまた違って、少し遠回りながらも根が下りていて、じんわりと染み渡っていく、そんな大らかな比喩だと思います。

 と、そんな感じで、最初から最後まで非常に優しく、しかしグツグツ煮えたぎる熱いものが篭った、とても情熱的な物語でした。音楽の知識がどうこう言いましたが、決して音楽通でなくても楽しめると思いますので、是非読んでみて欲しいなと思います。もしかしたら貴方の中にもレボリューションが起こるかもしれません。
関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントを投稿する

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。