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『灼熱の小早川さん』


灼熱の小早川さん (ガガガ文庫)灼熱の小早川さん (ガガガ文庫)
(2011/09/17)
田中 ロミオ

商品詳細を見る

内容(「BOOK」データベースより)
人間関係も勉強もそつなくこなし、万事如才ない高校生となった飯嶋直幸。県下でもトップレベルの進学校に入学した彼は、なに不自由ない学園生活を手にした。伝統と自粛のバランス―そんな口当たりのいい雰囲気に突然水を差したのは、クラス代表となった小早川千尋。代表に立候補し、履行の邪魔なので副代表は不要と言いはなった眼鏡女子だ。常にテンション高め、ガチガチの規律でクラスを混乱に陥れる彼女のその手に、直幸は炎の剣を幻視する。そして彼女の心の闇を知るのだが―。田中ロミオ最新作は、ヒロイン観察系ラブコメ。


空気。教科書より書籍より何より、学生が読んで動かなくてはならないもの。
そして、その目が格段に肥えたとき。空気を切り裂く灼熱の剣が可視化する。

最近(でもないか)は『KY』という言葉が一般化し、あらゆる場所で『空気を読む』ことが求められるようになった。もちろん空気を読むことは昔から大切なことではあるが、最近はいわば義務であって当然のことのようにそれが強いられているように感じる。
「空気を読め」というのは本来、「その場の状況を読み取り、その場に適した行動を取れ」ということだ。それがいつの間にか、「全体の輪を乱すな。多勢に同調して行動しろ」といったニュアンスになってしまっている。空気、それが常識になってしまうのだ。そして、その意味での「空気を読め」が最も強く発揮されている場所が、『学校』であるように思う。

さて、この作品の主人公である飯嶋は、そんな『学校』で生き抜く術を身に付けた、立ち回り完璧な少年。空気を読むことに長け、人脈の広げ方も巧く、新しく入学した高校でも数日でクラスメイトから多くの信頼を集める技量を持つ。
そんな飯嶋の所属する1年B組に、入学式から欠席し続けていた女生徒、小早川千尋が現れる。彼女は登校するや否や「クラス代表をやる」と言い放ち、クラスの風紀をビシビシと取り締まる。クラスメイトの反感を買ってしまう彼女だがまったくその所業は衰えることなく、小早川千尋を嫌う『空気』は完成し、あっという間に彼女は孤立していまう。

やがて空席だったクラス副代表を決めるという話が持ち上がる。副代表は代表である小早川千尋と共に行動する機会が増えてしまうため、誰もやりたがらない。そこで生徒たちはその場の勢いで、人望の厚い飯嶋を推薦し、結局飯嶋は副代表になってしまう。そして、そこから千尋とタッグを組みあらゆる行事を乗り越えていく中で、飯嶋の学校での立ち位置、評価、グループが変化していく。

現代の「空気を読め」が蔓延している教室において、集団というのは実に脆い。もちろん、ちゃんとした結束を持ってクラスとして成立しているクラスも多数あるだろう。しかし、それ以外のクラスでのつながりというのは、蜘蛛の糸のような細い糸で繋がれたようなものだと思う。ここで蜘蛛の糸としたのは、訳がある。一本一本では簡単に切れてしまう脆い糸であっても、クラスが一つになったとき、強力な粘りを見せるからだ。

この作品に登場する1年B組の生徒は、決して一人ひとりが不良生徒というわけではない。むしろ普通の生徒なのだが、それゆえに『空気』に流されやすく、そしてそれ故に『クラスの総意』というものがすぐに生まれる。それもまた『空気』と言い換えることが出来るだろう。その『空気』に慣れた集団というのは実に恐ろしい。その『空気』が『常識』となり、「空気を読まない」ことは「異端」である。集まった蜘蛛の糸は常識という名の巣となって、異端者を絡め取ろうとする。

そして、クラス代表、生徒会役員、風紀委員らに求められること、それはまさに「空気を読まないこと」なのだ。ガチガチにクラス代表を完璧に全うするのなら、生徒手帳に書かれている校則を熟読し、それに反している生徒にはそれをやめるよう注意する必要があるだろう。だがしかし、それでは生徒の反感を強く買ってしまう。むしろ、校則なんて守っていたら笑われるだろう。それは最近とかの問題ではなく、長い時間をかけて熟成されてきた『空気』、『常識』なのだ。
そこで、少し妥協することが必要になってくる。ここで妥協しすぎては意味が無いのだが、大抵の人はここで盛大に妥協するだろう。それが、「空気を読まないこと」を求められるクラス代表が『学校』で生き残る手段。「空気を読む」ことだ。

しかし、小早川千尋は妥協しない。空気を読まない。クラス代表として完璧であろうとする。それは彼女の強い正義感から来るものであり、そして実際、本来ならば正義であるはずだ。だが、それは多勢の前では悪でしかない。教室では別の『常識』があって、ルールは、法則は捻じ曲がっている。それでも、千尋は妥協しない。副代表の飯嶋は、その奔走ぶりを見て少しずつ自分の在り方を変えようとしていく。いや、無意識的に変わっていく。飯嶋の中での『常識』が変わっていくのだ。そしてそれはやがてクラスの『常識』をも覆さんとする勢力に拡大していく。

この記事を今読んでくれているあなたは、どんな高校生活を送ってきただろうか。もしくは、今まさに高校生活の真っ只中だという人もいるかもしれない。果たして、空気に流されていなかっただろうか。おかしいと思ったとき、声を大にしてそれを言えただろうか。もちろん空気を読んで動くことは重要だ。でも、もしもそれに耐えられなくなったら、それを打開したいと思うのだったら。燃え滾るその感情をぶちまけてみるのも良いかもしれない。その勇気があるなら、きっとその手には空気を切り裂く灼熱の剣が握られているだろう。
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